新型コロナウイルスの感染拡大とエアロゾル粒子の輸送現象との関係
(How can aerosol particles increase new cases of COVID-19)

なぜ,世間では感染力だけが問題になるのか?

新型コロナウイルスは変異をし続け,その感染力が世界中のニュースで報道されていますが,残念なことに,ウイルスの感染力だけが問題視されているように見受けられます。新型コロナウイルスの感染が報道されるようになって1年以上が経過し,「どのような状況で感染リスクが高くなるか」についても理解が進みました。また,飛沫の吸引を防ぐためにマスクが有効であることを WHO が認めるほどになりました。
感染拡大と気温・湿度についての議論についても,早い時期から取り上げられていますが,これまでのところ,政府が頼る感染症の専門家は,エアロゾル粒子の拡散が気温や湿度と深い関係にある点について,未だに十分理解しているようには思われません。感染症の専門家は,生物学的な観点から意見を述べますので,仕方のないことかもしれませんが,エアロゾルがどのように輸送されるかを正しく理解していれば,政府への提案の仕方も違ってくるように思われます。

エアロゾル粒子は,空気中で粒径を変える

寒い季節になり,息を吐き出すと,一瞬白い霧のようになって,すぐに見えなくなる,そういう様子は誰もが見たことがあるのではないでしょうか。比較的大きな水蒸気の粒は,光を反射して霧のように見えますが,1秒経つか経たないかでより小さな粒になり,人々が暮らす大半の環境では,人の目では確認が難しい粒径(<1 μm 以下)へと短時間に変化します。新型コロナウイルスの大きさは,およそ 0.1 μm 前後と小さく,多少の水蒸気をくっつけたまま浮遊している状態を目の前で確認することは困難となります。また,呼気に含まれるウイルスの量は,感染者の状態や呼気・咳の状態によって様々となり,エアロゾルの中に僅かしかない場合もあれば,比較的大きな飛沫を含むエアロゾル粒子の中に数多くのウイルスを含んでいることも考えられます。
仮に,5個のウイルスを含んだエアロゾルが放出された場合,冬場の乾燥した時期であれば,5個のウイルスがバラバラになって浮遊する可能性が高くなります。夏場の気温が高い状況では,飽和水蒸気量が桁で大きいため,ある程度固まったままになっている可能性が高いと考えられます。従って,気温が異なると,同じ量のウイルスを感染者が放出した際,ウイルスを含むエアロゾル粒子の数は寒い季節の方が多くなることが予想できます。

エアロゾル粒子とコロナウイルスの大きさと数の変化(蒸発前と後)

もう一つ重要な点は,浮遊したエアロゾルが,どれくらい浮遊していられるか,そして,どれくらい遠くまで運ばれてゆくか,という点です。肉眼では確認が難しい小さなエアロゾルは,空気の流れとともに輸送され,特に室内の気温が低い環境では,浮力によって上昇し,室内に広く数10秒という短い時間で輸送されることが,弊社の先の計算(応用物理学会 特別WEBコラム 新型コロナウイルス禍に学ぶ応用物理 - コロナウィルスのエアロゾル感染シミュレーション)でも示されています。
軽いエアロゾル粒子は,空気の流れに沿って運ばれるため,途中までは壁や天井に向かっていても,近くで向きを変えて壁や天井に沿った流れとなり,簡単に付着することも難しくなります。濃度勾配による拡散により,壁の近くでは少しずつ壁へと付着・凝縮することになりますが,冬の方が,より遠くまで比較的短時間に輸送されることはシミュレーション結果からも明らかです。コロナウイルスの実際の広がり方は,夏と冬で,下の図のような違いが生じます。

新規感染者数変動予測

別のページに,都道府県ごとの新規感染者数変動を準備しました。

back to home


© 2008- ATHENASYS Co., Ltd. All Rights Reserved.