CFD-ACE+ を用いた SiC CVD シミュレーション
(
CFD-ACE+ CVD Simulation : chemical vapor deposited silicon carbide )

シリコン・カーバイド( Silicon Carbide:SiC )はシリコン( Si )よりも材料の物理特性に優れており,パワーデバイス向けの半導体材料として期待されています( SiC半導体:外部サイト,等).

実験・シミュレーションの両方から検討が以前より進められていますが,以下では,SiC CVD 装置の熱解析モデルを元に,気相・表面の反応を考慮した CVD シミュレーションの例をご紹介します.

参考論文:
Growth rate predictions of chemical vapor deposited silicon carbide epitaxial layers
O. Danielsson, A. Henry, E. Janzen
Journal of Crystal Growth 243 (2002) 170-184

■ 計算モデル

装置の形状・計算モデルは,先の解析例をベースにしていますが,ガス流量等が異なるため,境界条件や電流値等について若干の見直しを行いました.その上で,サセプター(graphite)中央において,論文で述べられている基本条件とされた温度(1600℃)に近い条件を求めました.

考慮した気相反応の数は論文と同じですが,逆反応のレート算出には全て平衡モデルを利用しています(論文では,アレニウス型の速度定数を用いているものと平衡モデルを利用したものが混在しています).考慮した反応ステップの一覧を,以下の表1に示します(反応レートの詳細は論文に記載されており,以下では割愛致します).

表1 シミュレーションで考慮した気相反応( 110 steps )

CH4 <-> CH3 + H
C2H2 <-> H + C2H
C2H4 <-> C2H2 + H2
C2H5 <-> H + C2H4
C2H6 <-> 2.0 CH3
C3H8 <-> CH3 + C2H5
2.0 CH <-> C2H2
H + CH2 <-> H2 + CH
H2 + CH2 <-> CH3 + H
CH + CH2 <-> H + C2H2
2.0 CH2 <-> C2H4
2.0 CH2 <-> 2.0 H + C2H2
2.0 CH2 <-> C2H2 + H2
CH3 + H2 <-> CH4 + H
CH3 + CH <-> H + C2H3
CH3 + CH2 <-> H + C2H4
2.0 CH3 <-> H + C2H5
CH4 + CH <-> C2H5
CH4 + CH <-> H + C2H4
CH4 + CH2 <-> C2H6
CH4 + CH2 <-> 2.0 CH3
CH4 + CH3 <-> H2 + C2H5
C2H + H2 <-> H + C2H2
C2H + CH2 <-> C2H2 + CH
CH4 + C2H <-> CH3 + C2H2
H + C2H2 <-> C2H3
C2H2 + H2 <-> H + C2H3
2.0 C2H2 <-> C2H + C2H3
C2H3 + M <-> H + C2H2 + M
H2 + C2H3 <-> H + C2H4
CH2 + C2H3 <-> CH3 + C2H2
CH3 + C2H3 <-> CH4 + C2H2
CH4 + C2H3 <-> CH3 + C2H4
C2H4 + M <-> C2H2 + H2 + M
C2H4 + M <-> H + C2H3 + M
C2H4 + H2 <-> H + C2H5
C2H2 + C2H4 <-> 2.0 C2H3
2.0 C2H4 <-> C2H5 + C2H3
H + C2H5 <-> C2H6
H2 + C2H5 <-> H + C2H6
CH3 + C2H5 <-> CH4 + C2H4
CH4 + C2H5 <-> CH3 + C2H6
C2H + C2H5 <-> C2H2 + C2H4
C2H2 + C2H5 <-> C2H + C2H6
C2H5 + C2H3 <-> C2H2 + C2H6
C2H4 + C2H5 <-> C2H6 + C2H3
2.0 C2H5 <-> C2H4 + C2H6
C2H6 + CH2 <-> CH3 + C2H5
SIH4 <-> H2 + SIH2
SIH4 <-> H + SIH3
SI2 <-> 2.0 SI
H3SISIH <-> SIH4 + SI
H3SISIH <-> H2 + SI2H2
SI2H6 <-> SIH4 + SIH2
SI3H8 <-> SIH2 + SI2H6
SI3H8 <-> SIH4 + H3SISIH
H2 + SIH <-> SIH3
H + SIH2 <-> SIH3
H + SIH2 <-> H2 + SIH
SIH2 + SI <-> H2 + SI2
SIH2 + SI <-> SI2H2
2.0 SIH2 <-> H2 + SI2H2
H + SIH3 <-> H2 + SIH2
SIH2 + SIH3 <-> SI2H5
2.0 SIH3 <-> SIH4 + SIH2
H + SIH4 <-> H2 + SIH3
SIH4 + SI <-> 2.0 SIH2
SIH4 + SI <-> H2 + SI2H2
SIH4 + SIH <-> SIH2 + SIH3
SIH4 + SIH <-> H + H3SISIH
SIH4 + SIH <-> SI2H5
H + SI2 <-> SI + SIH
H2 + SI2 <-> 2.0 SIH
H2 + SI2 <-> SI2H2
SIH2 + SI2 <-> H2 + SI3
SI2 + SI <-> SI3
H2 + H3SISIH <-> SIH4 + SIH2
SIH4 + H3SISIH <-> SIH2 + SI2H6
SIH3 + SI2H5 <-> SIH2 + SI2H6
H + SI2H6 <-> H2 + SI2H5
H + SI2H6 <-> SIH4 + SIH3
SI + SI2H6 <-> SIH2 + H3SISIH
SIH3 + SI2H6 <-> SIH4 + SI2H5
H2 + SI3 <-> SI + SI2H2
SI + SI3 <-> 2.0 SI2
SIH2 + SI3 <-> SI2 + SI2H2
HSICCH <-> H2 + SIC2
H2CCHSIH <-> H2 + HSICCH
H2CCHSIH3 <-> H2 + H2CCHSIH
H3SICH3 <-> CH3 + SIH3
H3SICH3 <-> H2 + HSICH3
CH3SIH2SIH <-> 3.0 H2 + SI2C
SIH3SIH2CH3 <-> H2 + CH3SIH2SIH
CH4 + SIH2 <-> H3SICH3
C2H2 + SIH2 <-> H3SICCH
C2H2 + SIH2 <-> H2CCHSIH
C2H4 + SIH2 <-> H2CCHSIH3
CH3 + SIH3 <-> CH4 + SIH2
CH2 + SIH4 <-> H3SICH3
CH3 + SIH4 <-> CH4 + SIH3
C2H5 + SIH4 <-> C2H6 + SIH3
H + H3SICH3 <-> H2 + H2SICH3
CH3 + H3SICH3 <-> CH4 + H2SICH3
SIH2 + H3SICH3 <-> SIH3SIH2CH3
CH4 + SI2 <-> 2.0 H2 + SI2C
SIH3SIH2CH3 <-> SIH4 + HSICH3
H + H2 <-> 3.0 H
2.0 H2 <-> 2.0 H + H2
2.0 H + M <-> H2 + M
SI2H6 <-> H2 + H3SISIH

考慮した表面反応については,論文と同様に設定しました.論文では,H2 etching の考慮の有無について議論・検討していますが,以下の計算例は,表2の成膜ステップの他に,アレニウス型の H2 etching の step を始めから追加しています.

表2 シミュレーションで考慮した成長に寄与するガス種の付着係数

species
sticking
coefficient
Si
1
SiH
0.94
SiH2
0.7
SIH3
0.5
SI2C
1
SI2
1
SI3
1
CH
0.01
CH2
0.01
CH3
0.01
CH4
5e-5
C2H
0.03
C2H2
0.02
C2H3
0.03
C2H4
0.0016
C2H5
0.03
C2H6
0.0016

付着係数(sticking coeffient)は,反応面に熱運動速度で入射したガス種( species )が反応する割合を意味します.

ガス流量は,論文の中で述べられている標準条件( SIH4/C3H8/H2 = 0.9/1.05/13000 sccm)を選んでいます.圧力は 1000 mbar(大気圧)としました.

■ 計算結果

始めに,計算領域全体の温度分布を Fig. 1 に示します(2次元軸対称モデルを利用しています).

temperature distribution of the SiC reactor

Fig. 1 SiC CVD 装置の温度分布

向って左側に inlet が配置されており,内径75mmの石英管の中を,導入したガスが左から右に向って流れます.温度の高い領域が下流側になびく様子は,先の熱解析モデルの結果と同様です.なお,コイルは銅パイプを仮定し,内部は水冷されており,100℃よりも低い温度を仮定しています.

サセプター( graphite )近傍の温度と流速分布(流体部のみ)を Fig 2 に示します.

temperature and velocity magnitude near the suceptor

Fig. 2 ガス温度(上),及び,流速(下)の分布

考慮したガス種は,合計で36ありますが,以下では,成長・エッチングに寄与すると仮定されている species に関する質量分率( mass fraction )を示します.

mass fraction of SiH4 and C3H8

Fig. 3 SIH4(上)及び C3H8(下)の質量分率

SiC のソースとなる Si 及び C は,SIH4 と C3H8 の分解物から供給されますが,温度が1500℃前後となる領域で,どちらもほとんど分解している様子が分かります.

mass fraction of CH and CH2

Fig. 4 CH(上)及び CH2(下)の質量分率

mass fraction of CH3 and CH4

Fig. 5 CH3(上)及び CH4(下)の質量分率

mass fraction of C2H and C2H2

Fig. 6 C2H(上)及び C2H2(下)の質量分率

mass fraction of C2H3 and C2H4

Fig. 7 C2H3(上)及び C2H4(下)の質量分率

mass fraction of C2H5 and C2H6

Fig. 8 C2H5(上)及び C2H6(下)の質量分率

CxHy は,親ガスである C3H8 の分解に伴い,温度の高い領域とその下流側で割合が高くなっている様子を確認できます.

mass fraction of Si and SiH

Fig. 9 Si(上)及び SiH(下)の質量分率

mass fraction of SiH2 and SiH3

Fig. 10 SiH2(上)及び SIH3(下)の質量分率

mass fraction of Si2 and Si3

Fig. 11 SI2(上)及び SI3(下)の質量分率

SIH4 の分解物も,CxHy の分布と同様,主に温度の高い領域よりも下流側に分布しています.

mass fraction of Si2C and H2

Fig. 12 SI2C(上)及び H2(下)の質量分率

H2 は反応にも寄与しますが,キャリアガスとしても利用されており,流量を変えることで導入ガスが装置内に滞在する時間をも決めています.

■ 成長速度分布

SiC deposition rate

Fig. 13 サセプター(graphite)上の成長速度分布

得られた成長速度は,ガス導入側から少し中央に寄った付近でピークを持つ傾向を示しており,論文で紹介されている実測の傾向を再現しています.また,定量的にも大差ありません.なお,論文で示されているシミュレーション結果には,3次元モデル利用されており,軸対称モデルと若干異なるようです.

■ サセプター近傍における各speciesの分圧

partial pressure of the reacting species

Fig. 14 サセプター近傍における species の分圧分布

気相反応における逆反応レートの与え方が若干異なるためか,分圧の分布は論文の結果とはやや異なるようですが,C2H2 や CH3,SiH2 や,Si,SIH3 等が比較的高い分圧を示す傾向が再現されています.なお,CH4,H 及び H2 の分圧は,論文と比較するために割愛しています(0.0001 [Pa] 以下の species についても割愛しています).

さて,論文では分圧を示したところでグラフや図の説明は終わっていますが,少し進めて,分圧に付着係数を掛けた値を縦軸にとり,成長速度に対する寄与を確認してみます.

■ 成長速度への寄与

species contributing SiC deposition

Fig. 15 成長速度に対する寄与とその分布

Fig. 12 より,SiC の成長速度に対し,Si のソースとしては SiH2 と Si が,また,C のソースとしては C2H2 が最も重要なことが分かります.CH4 は,付着係数は他と比べると小さいですが,分圧が高いために,その影響を無視出来ない可能性があることを確認出来ます.

論文では,成長した SiC の特性(結晶性・欠陥)に関しても,プロセス条件と比較・検討していますが,Fig. 15 のような傾向と対比させることで,どのような温度分布・分圧分布が理想的か,といった情報を得る手掛かりになると期待されます.

今回用いている反応モデルは,考慮している species やステップ数がかなり多いこともあり,今後,主要な species・ステップに絞ったモデルについても検討する予定です.

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