1.1 閉じた空間に対するモデル化
< Last Update : Nov. 6 2008 >
流体が関与するシミュレーションは,まず,外部流れと内部流れの2つに大別出来ると思います.
勿論,厳密な区別が出来ない場合も少なくありませんが,ある領域の外側を重視する場合,又は,内側を重視する場合,のどちらかに分けて考えられる場合が多々あります.例えば,パソコン周辺の空気の流れや温度分布を計算したい場合を考えてみます.パソコン内部のどの部分でどの程度の熱が発生しているかは計算に考慮したいところですが,パソコン内部の空気の流れが,パソコン周辺に与える影響は一般に小さいと考えられるので,パソコン内部の空気の流れは計算モデルから外したい,と考えるのが一般的です(ファンから高温の空気が出てきますから,その流れの影響を境界条件としてモデルに考慮する必要はありますが).
また,パソコン周辺の空間に目を向けると,目の前に人が座っていれば,その人も考慮したい場合もあるでしょうし,エアコンが部屋に設置されていれば,そのエアコンも計算に考慮する必要があるかも知れません.いずれにしても,パソコンからある程度離れた空間までを計算領域に考慮することになります.その領域の決め方は,それほど自明ではなく,パソコンから 1m 離れれば十分な場合もあれば,部屋全体をモデル化する必要がある場合もあるでしょう.
さて,反応炉の内部,例えば CVD装置内のガス流れを計算する場合ですが,その装置の内壁(対象となる流体が接する壁)を計算領域の最外周とし,計算モデルを作成し始める,という事が多いのではないでしょうか.また,成膜やエッチング等,処理する基板が設置される空間のごく近傍だけを計算領域にとっている,ということはないでしょうか.最終的に目指す解析モデルは,それで良いかも知れませんが,初めて計算するモデルの場合,色々な不都合が生じます.何故なら,適当な境界条件を設定するのが非常に難しいからです.
境界条件は,CVD装置の解析ではいつも厄介な問題の一つです.実際,完璧と言えるほどの境界条件を設定できる事はほとんどありません.しかしながら,色々な準備をすることで,ある程度現実的な境界条件を設定することは可能です.
☆
装置を構成する部材には,用途に応じた金属が広く用いられますが,目標温度が高い場合や電気的な絶縁が必要な場合には,石英やセラミクス等も用いられます.これらの部材は,それぞれ熱伝導率が異なり,装置内で発生した熱がどのような経路を通って外へ逃げてゆくかは,装置の構成によって違ってきます.
一般的に,CVD装置では熱輻射による熱の輸送が無視出来ませんが,熱伝導による熱の輸送も十分大きく,両方をきちんと考慮しないと,妥当な熱解析モデルを作ることが出来ません.温度分布が実測と異なる場合は,反応モデルがどんなに妥当であっても,実験結果で得られる成膜速度分布を再現することは難しくなります.従って,最終的に意味のある計算モデルを準備するには,実際の温度分布を再現できるモデルの準備が不可欠となります.
簡単な例として,以下のような誘導加熱を用いる簡易なモデルで考えてみます(向って下の点線は,中心軸を仮定しています).
Fig. 1 誘導加熱を利用する装置の二次元軸対称モデル
赤い部分は,加熱したい部分として考えていますが,交流を印加するコイルとの間は通常石英(quartz)を用いています.周囲を全て石英で作成することも原理的には可能ですが,金属と溶接したり,シールする構造を用いながら支えられている可能性があります.周囲の金属とは熱伝導( conduction )により,熱が逃げることになりますし,加熱されている部分は,石英を通過して輻射熱としても逃げてゆきます.導入ガスは,熱分解されるととともに,やはりある程度の熱を持ち去ります( convection ).
このような装置の熱解析を行う場合,計算領域の取り方としては,幾つか考えられます.例えば,以下のようにプロセスガスが満たしている領域( computational domain - A ),プロセスガスが隣接している部材までを含んだ領域( computational domain - B ),或は,コイルの外側まで考慮した領域( computational domain - C )等です.
Fig. 2 計算領域の取り方(上から下へと考慮する領域が広くなる)
計算領域を減圧領域の外側まで拡張すると,隔壁部材の内部を通過して輸送される熱を考慮することが出来ます.加熱されている部材やその近傍の部材からの熱輻射による熱の放出も考慮することができ,より現実的な境界条件を設定できます.
仮に,チャンバー内部の温度分布を精度よく測定することが出来たとしても,チャンバーの部材を考慮しない計算モデルでは,ヒーターやコイルの電流を変え,投入電力を変えてしまった際の温度分布を予測することは,一般に困難です.しかし,チャンバー部材を考慮した計算モデルを準備することで,投入電力を変えた場合の温度分布を予測することも可能となります.熱解析で検討したい条件は,まだ実測していない,或は,実測出来ない,条件も含まれることを踏まえて,モデル作成を考えることが重要です.
☆
さて,チャンバー部材を考慮することでモデルを向上出来たとしても,実測とフィティングをしようとすると,まだまだ合わない,という状況も十分考えられます.チャンバーには固定する為の支柱があるでしょうし,基板を搬送するロードロックや隣の処理室へ繋がれているかも知れません.このような場合,目的のチャンバーだけを計算モデルに考慮しても,温度分布を実測と十分フィットさせるには不十分な場合も出てきます.金属は一般に熱伝導率が高く,かなり遠方まで熱を効率良く逃がします.
どこまでを計算領域として考慮するかは,既存の実験装置に対する温度測定の結果とシミュレーションの結果を比較し,ある程度妥当な温度分布を得ることが望ましいと言えます.実際のところ,たった一つのアプローチがあるわけではないので,経験を積みながら,出来るだけ目的に適った解析モデルを作ることが望ましいと言えます.境界条件というシミュレーションには不可欠な計算条件があることを念頭において,計算モデルの範囲を考える必要があるためです.
☆
更新内容 :
1) upload on Oct. 18 2008
2) additonal figures on Nov. 6 2008
home > Door to Reactor Simulation(目次) > 1.2
© 2008 ATHENASYS Co., Ltd. All Rights Reserved.