CFD-ACE+ / CVDSimを用いた SiC CVD シミュレーション
(
CFD-ACE+ CVD Simulation with CVDSim : chemical vapor deposited silicon carbide )

先にご紹介した SiC CVD 装置の熱解析モデルを用い,気相及び表面反応に,CVDSim のモデルを用いた計算を行ってみました.

このモデルでは,Danielsson氏らが用いた気相反応モデルと比べると,考慮しているガス種( species )及びステップの数が限られています.主要な species とその path に絞っており,実験結果との対応を維持しつつ,計算時間の短縮を目指しています.

■ 計算モデル

考慮した反応ステップの一覧を,以下の表1に示します(反応レートの詳細は割愛させて頂きます).

表1 シミュレーションで考慮した気相反応( 9 steps )

C3H8 <-> C2H5 + CH3
CH4 + H1 <-> CH3 + H2
C2H5 <-> H1 + C2H4
C2H4 <-> H2 + C2H2
C2H5 + H1 <-> 2.0 CH3
SIH4 <-> H2 + SIH2
SIH2 <-> H2 + SI
H1 + SIH2 <-> H2 + SIH
2.0 H1 <-> H2

水素原子は,ここでは H1と表現しています.

考慮した表面反応については,user subroutine( CVDSim の SiC edition )を用いて計算されています.なお,このモデルでは,水素原子による吸着サイトを考慮しています.

ガス流量は,Danielsson氏らの論文を参考に計算したものと同様としました.

■ 計算結果

始めに,計算領域全体の温度分布を Fig. 1 に示します(2次元軸対称モデルを利用しています).

temperature distribution of the SiC reactor

Fig. 1 SiC CVD 装置の温度分布

向って左側に inlet が配置されており,内径75mmの石英管の中を,導入したガスが左から右に向って流れます.気相反応や表面反応の違いは,温度分布にはほとんど影響を与えていません.

サセプター( graphite )近傍の温度と流速分布(流体部のみ)を Fig 2 に示します.

temperature and velocity magnitude near the suceptor

Fig. 2 ガス温度(上),及び,流速(下)の分布

考慮した species は,合計で12ありますが,代表的な species に関する質量分率( mass fraction )を以下に示します.

mass fraction of SiH4 and C3H8

Fig. 3 SIH4(上)及び C3H8(下)の質量分率

SiC のソースとなる Si 及び C は,SIH4 と C3H8 の分解物から供給されますが,どちらもほとんど分解している様子が分かります.

mass fraction of CH3 and CH4

Fig. 4 CH3(上)及び CH4(下)の質量分率

mass fraction of C2H2 and C2H4

Fig. 5 C2H2(上)及び C2H4(下)の質量分率

mass fraction of C2H5 and H1

Fig. 6 C2H5(上)及び H1(下)の質量分率

mass fraction of SiH and SiH2

Fig. 7 SiH(上)及び SiH2(下)の質量分率

mass fraction of Si and particle density

Fig. 8 Si(上)の質量分率,及び particle(下)の濃度

気相中で生じる particle(粉の生成)を考慮してみましたが,本計算条件ではほとんど生じていないことが分かります.

■ 成長速度,H1 の site fraction 及び,温度分布

SiC growth rate, H site fraction

Fig. 9 サセプター(graphite)上の成長速度,H site fraction,及び,温度の分布

ガス導入側に近いほど成長速度が大きくなる傾向は,実験結果やDanielsson氏のモデルの結果とやや異なるようですが,実験結果においても,やや異なるプロセス条件では,むしろ今回の傾向に近い結果となっていると思われます.

温度分布と H1 の site fraction とは,はっきりとした負の相関が見られますが,成膜速度との関係についてはあまりはっきりしないようです.このプロセス条件では,H1 の site fraction が成膜速度を律速するほどの影響を及ぼしてはいないと言えるようです.ただし,CVD においては,成膜面内におけるサイトの競合がしばしば問題となりますので,表面反応モデルにおける H の役割については,今後調べておきたいと思います.

■ 熱平衡モデルを用いた温度に対する species の割合

molar concentration by equ

Fig. 10 温度に対する species の濃度

分解が進む C3H8 と大半を占める H2 は,Fig. 10 では省略しています.

Danielsson氏らのモデルから予測される主要な species は,成膜速度への寄与を調べた Fig. 15 を見ると分かりますが,ここに現れる主要な gas species は,CVDSim のモデルにも含まれていることが分かります.

また,本プロセスは成膜面の温度が 1800K前後で,考慮している多くの species の割合がまだ増える領域にあり,2200K を超える高温の SiC CVD プロセスでは,主要な gas species が入れ替わってくることも予想できます.

反応モデルの構築には,大きくわけて2通りあると考えられます.一つは,考え得る species と関与する反応ステップを可能な限り考慮する方法で,もう一つは,CVDSim のような主要な species と path に着目した方法です.圧力の高いプロセスでは,SiH4 の分解・重合するプロセスだけでも,膨大な数になることが知られていることから,現実的な計算時間で妥当な精度を求めるシミュレーションにおいては,後者のようなアプローチが向いていると考えられます.

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