CFD-ACE+ を用いたプラズマシミュレーション:N2 誘電体バリア放電
(
CFD-ACE+ Plasma Simulation : N2 Dielectric Barrier Discharge )

大気圧プラズマは,応用分野が非常に広く,また,実用化に向けての研究も一段と活発になってきています.日本機械学会でも大気圧プラズマ流に関する 特集(外部サイト:日本機械学会・流体工学部門 ニューズレター 流れ:2007年12月号)が組まれており,低温プラズマ流だけでも,医療,アクチュエーター,ダイオキシン分解,ナノテクノロジー,液中プラズマプロセス等,様々な分野での研究が進められていることが分かります.また,昨今身近になった空気洗浄技術の基本も,大気圧プラズマです.

以下では,窒素ガスの誘電体バリア放電(DBD)に関するプラズマ生成(ストリーマ)の計算例をご紹介します(なお,計算条件や境界条件は今後見直す可能性があり,それに伴って以下のデータも見直される可能性があります).

■ DBDの計算モデル

simulation model for N2 DBD

Fig. 1 計算モデルの概略

シミュレーションでは,二次元軸対称モデルとして取り扱っており,中心軸を対称境界とした半分の領域を計算しています.図中の dielectric は,厚さ1mm・半径1.5mm の誘電体( 比誘電率 3.8 )を仮定しました.また,誘電体より外側の流体部の境界は,気体が流入出可能な outlet(1e5 Pa)とし,中心軸に平行な境界は電位ゼロを仮定しています.誘電体表面では,入射するイオンに対し1%の二次電子放出を考慮しました.

DBD では,しばしばパルスを与えますが,ここでは下部誘電体の裏側に 10kHz の正弦波( peak to peak :4kV )を与え,初期の様子を観察しました.

気相中のガス種には,N2,N,準安定励起種として N2(A3Σu),N2(a'1Σu),励起種としてN2(C3Πu),N2(B3Πg)等の中性粒子と,N+,N2+,N3+,及び N4+ のイオンを考慮しています[1].

以下に,計算結果を幾つか示します.時刻は,5μs,9μs,10μs,11μs,18μs を選びました.左と右に,Te(電子温度)と Ne(電子密度),気相の電位とN4+の数密度分布,及び,ガス温度と流速,を選んでみました.

■ Te と Ne の分布

Te and Ne at 5e-6 sec

Fig. 2 Te 及び Ne(時刻:5μs)

Te が徐々に高くなってきていますが,Ne は,まだ非常に小さい値のままです.なお,本シミュレーションでは,Ne の最低値として,1e5[#/m^3] を設定しています.

Te and Ne at 9e-6 sec

Fig. 3 Te 及び Ne(時刻:9μs)

下部誘電体表面の中央付近で,Ne が急激に上昇しています.また,Te の高い部分は,Ne の高い部分よりもやや上部に位置している様子が分かります.

Te and Ne at 1e-5 sec

Fig. 4 Te 及び Ne(時刻:10μs)

Ne の高い領域(ストリーマ)が中央に伸びています.Te の最も高い領域は中心軸上にありますが,下部誘電体表面を水平方向(径方向)にも Te のやや高い領域が移動しています.

Te and Ne at 1.1e-5 sec

Fig. 5 Te 及び Ne(時刻:11μs)

Ne の高い領域が誘電体間に広がり Te の高い領域は上部誘電体表面を水平方向(径方向)に移動しています.

Te and Ne at 1.8e-5 sec

Fig. 6 Te 及び Ne(時刻:18μs)

Ne の値が少しずつ下がるとともに,Te もやや下がりながら広がって行きます.これらの様子は,一次元の計算モデルだけからは把握出来ないことが予想されます.

次に,同様の時刻に関し,電位と N4+ の分布を比較してみます.

■ 電位と N4+ の分布

electric potential and N4+ at 5e-6 sec

Fig. 7 電位 及び N4+(時刻:5μs)

Ne の値が非常に小さいこの時刻では,N4+ もほとんど存在していません.

electric potential and N4+ at 9e-6 sec

Fig. 8 電位 及び N4+(時刻:9μs)

N4+ の値が急激に大きくなっており,先の Ne の変化と対応している様子が分かります.なお,他のイオン( N+,N2+,N3+ )も同様に増えていますが,N2 DBD に関しては,N4+ が主たるイオン種と考えられます.

electric potential and N4+ at 1e-5 sec

Fig. 9 電位 及び N4+(時刻:10μs)

流体部で電位の高い部分は,中心軸上ではなく,下部誘電体表面の中央より離れたところに位置しています.これは,先の Te の分布にも対応しています.

   electric potential and N4+ at 1.1e-5 sec

Fig. 10 電位 及び N4+(時刻:11μs)

Ne や Te の分布と対応している様子がうかがえます.

electric potential and N4+ at 1.8e-5 sec

Fig. 11 電位 及び N4+(時刻:18μs)

中央を走り抜けたプラズマは,上部の誘電体表面に到達すると,水平方向(径方向)へも広がる様子が,N4+ の結果からも分かります.

本シミュレーションでは,流体部は理想気体を仮定し,また,弾性衝突から生じるガスの加熱を考慮しています.温度上昇は僅かですが,僅かな圧力変化と同時に生じる流速の分布についても比較してみました(なお,ここでは層流を仮定しています).

■ ガス温度と流速の分布

gas temperature and velocity magnitude at 5e-6 sec

Fig. 12 ガス温度と流速の分布(時刻:5μs)

この時点では,温度上昇も無視出来て,流速もほぼゼロと見なせます.

gas temperature and velocity magnitude at 9e-6 sec

Fig. 13 ガス温度と流速の分布(時刻:9μs)

Ne が急速に上昇した部分で,ガス温度及び流速が高くなっています.

gas temperature and velocity magnitude at 1e-5 sec

Fig. 14 ガス温度と流速の分布(時刻:10μs)

Ne の高い領域が広がるにつれ,温度上昇している領域も広がり,流速の大きい領域は径方向にも広がっている様子が分かります.

gas temperature and velocity magnitude at 1.1e-5 sec

Fig. 15 ガス温度と流速の分布(時刻:11μs)

ガス温度が高い領域,及び,流速の大きい領域が上部誘電体表面近傍まで広がっています.

gas temperature and velocity magnitude at 1.4e-5 sec

Fig. 16 ガス温度と流速の分布(時刻:14μs)

14μsの結果のみ,ガス温度と流速の分布を示していますが,流速が比較的大きい領域がリング状に径方向へと広がる様子が分かります.

gas temperature and velocity magnitude at 1.8e-5 sec

Fig. 17 ガス温度と流速の分布(時刻:18μs)

温度が上昇した部分は急速には冷えていませんが,Ne の値がやや下がり,流速分布もやや落ち着いて行くようです.

参考文献:

[1] 窒素大気圧グロー放電プラズマのシミュレーション
KONICA MINOLTA TECHNOLOGY REPORT VOL.2 (2005)
末富 英一,尾崎 浩司,深沢 孝二

CFD-ACE+ を用いた DBD のシミュレーションは,上記の参考文献にも関連しますが,2004年の CFD-ACE+ ユーザー会での発表例もあります(外部サイト pdf file内 p. 216:大気圧窒素グロー放電プラズマシミュレーションの現状).今回の例は,計算モデル・反応モデル等,見直す余地もありますが,今後も引き続き検討を続ける予定です.

back to home > products > CFD-ACE+


© 2008- ATHENASYS Co., Ltd. All Rights Reserved.