圧力依存性を考慮するためのTroe 式
(
Troe's four parameters for reaction rate depending on pressure

気相中の反応レートは,しばしばアレニウス型の反応速度式で表現されます.ところで,圧力に依存した反応速度式を必要とする場合には,一般のアレニウス型では不十分な為,補正を加えるような式が用いられます.代表的な例としては,Lindemann の式,及び,Lindemann の式を拡張した Troe の式が知られています.

CVD プロセスのシミュレーションにおいても,時折,Troe の式を利用した反応モデルが用いられています.この式を表現するには,4つのパラメータの入力が必要となりますが,これらの値が計算結果にどのように影響するのでしょうか.CFD-ACE+ では,これら4つのパラメータを入力することで,反応モデルに考慮することが可能ですが,mathematica を利用して確認してみました.

Lindemman の式は,低圧限界の速度定数( low-pressure limit )k0,及び,高圧限界の速度定数( high-pressure limit )k を用いて,

k = k Pr / (1+Pr) (1)

という式で表されます.ここで,Pr は換算圧力( reduced pressure )です.

Pr = (k0 / k)[M] (2)

[M] は,ガスの濃度です.

Troe の式は Lindemann の式を少し修正しています.すなわち,(1) 式に係数F が掛かり,次式のようになります.

k = k {Pr / (1+Pr)} F (3)

log10 F = log10 Fcent / [ 1+ [ (log10 Pr + c)/{n-d(log10 Pr + c)} ]2 ] (4)

c = -0.4 - 0.67 log10 Fcent (5)

n = 0.75 - 1.27 log10 Fcent (6)

d = 0.14 (7)

Fcent = (1-α) exp(-T/T***) + α exp(-T/T*) + exp(-T**/T ) (8)

ここで,α,T***,T*,及び,T** の各パラメータが新たに必要になることが分かります.

さて,始めに Fcent を計算・確認してみます.

Fcent を計算する input の例 ( input for mathematica )

Fig. 1 Fcent を計算する input の例

得られた結果は,例えば,以下のようになります.

温度 [K] (横軸)に対する Fcent (縦軸)の計算結果 : Fcent vs Temperature depending on alpha, T***, T*, and T**

Fig. 2 温度 [K] (横軸)に対する Fcent (縦軸)の計算結果

温度を高くするにつれて,Fcent -> 1 となり,Lindemann の式と等しくなります.上記の例では,1000[K] 弱で Fcent = 1.2 となり,この値を使って,横軸に Pr,縦軸に k / k( = {Pr / (1+Pr)} F)を縦軸にとってみたものが,以下になります.

k / k∞ を計算する input の例 ( input for mathematica )

Fig. 3 k / k を計算する input の例

Pr (横軸)に対する k / k∞ (縦軸)の計算結果 : Plot  k / k∞ vs Pr ( reduced pressure )

Fig. 4 Pr (横軸)に対する k / k (縦軸)の計算結果

当然ながら,圧力が高くなるにつれて k / k ->1 となります.

Troe の4つのパラメータは,Fig. 2 のカーブを少しずつ変化させますが,高圧限界で 1 となり,実際に利用される Fcent の値は,1か1よりやや高い値(最大でも2)となることが予想できます.

今回のツールから,Troe の4つのパラメータの値に対する精度は,(相対的に)それほど重要ではなさそうなことが分かります.従って,実際の CFD の計算で使用する際には,高圧限界と低圧限界の反応速度定数を表す各パラメータが,より重要だと考えられます.


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